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12/12 司法改革 [本]

リーガル小説家である姉小路祐の文庫。急進的な司法改革を志向する新進のジャーナリストと、換骨奪胎して既得権の維持を目論む裁判官集団の一派の暗闘を描くミステリーである。ただ、この小説の真のテーマは犯人捜しにあるのではなく、裁判員制度の導入を近い未来に控え、その意義と問題点を世に問おうとしている点にある。残念ながら物語の展開が安直すぎる気はするが、あまりマスコミに注目されない司法制度改革がいったい何なのかということを分かりやすく説明しようとしている点は評価できる。それにしても、裁判所というのは、一般人にとって縁のない世界で、どこか怖いという印象があるが、もう少し敷居を低くするような法曹関係者の取り組みと自身の意識改革があってもよい。

司法改革

司法改革

  • 作者: 姉小路 祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/11/16
  • メディア: 文庫


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12/9 空飛ぶタイヤ [本]

これは面白かった。この間読んだ「ザ・リコール」と同様にリコール隠し問題を題材とした小説で、三菱自動車の事件をモデルとしているようだ。中堅の運送会社の保有するトラックのタイヤが走行中に突然外れ、そのタイヤが飛んで、運悪く歩行者に当たり死なせてしまったことが物語の発端。トラックの整備不良を主張する財閥系自動車会社と、主人公である運送会社の社長との間の闘いを詳細に描写しているのだが、警察を含め世間が味方するのは当然ながら自動車会社の方で、誰にも信じてもらえない絶望感に何度も苛まれながら自動車会社のリコール隠しの証拠を探す主人公がかわいそうで、つい感情移入をして読んでしまう。この作品が「ザ・リコール」よりも優れているのは、単に自動車事故の責任問題の帰趨にとどまらず、主人公の日常生活への影響、自動車会社の社内政治やそれぞれのメインバンクとの関係などについても本筋とシンクロさせながらきちんと描写し、小説としての厚みを何重にも増している点だろう。経済小説が好きな人にはぜひお薦めである。

空飛ぶタイヤ

空飛ぶタイヤ

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2006/09/15
  • メディア: 単行本


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12/7 臆病者のための株入門 [本]

個人的に好きな作家である橘玲さんが書いた新書である。最初に「株式投資はギャンブルである」という言葉で度肝を抜かれるが、だからといって、株式投資がいけないと言っているわけではない。株式投資というゲームに参加するのであれば、証券会社の投資セミナーなどに参加して甘言に乗せられる前に、自身の金融リテラシーを高めて、きちんと投資のリスクと中間搾取されるコストなどゲームのルールを認識した上で参加すべきというのが全体としてのメッセージ。もちろん、この本の中でもファイナンス理論のほんの触りの部分などが分かりやすく解説されているので、一読することによってゲームの基本的なルールは習得できるようになっている。「3ヶ月で○億円儲けた」的な安易な書籍が氾濫する中、このような正統派の本の存在は希少であり、ぜひ株式投資初心者に読んでもらいたい一冊。

臆病者のための株入門

臆病者のための株入門

  • 作者: 橘 玲
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 新書


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12/6 なぜ、あの会社は儲かるのか? [本]

経営戦略論と会計学を融合させ、初学者に分かりやすく解説した本として、かなり売れているらしい。実際に読んでみると、実在する日本企業を例としてふんだんに用いながら、どのような戦略を採っているのか、そしてその結果、それが収益などにどのように反映されてくるのかということを説いている。個人的に特に面白いと感じたのは、ポイントサービスの話で航空会社と百貨店を比較している章。元々、ポイントサービスはリピーターを増やすための戦略として有効であるが、貯まったポイントが引き換えられる際、航空会社はほとんど何も損をしない(∵空席で飛行機を飛ばしても、空席に無料客を座らせて運ぶのもコストは一緒なので)ため、企業と客がwin-winの関係となり、ポイントサービスが制度として長続きする。一方で、百貨店のポイントサービスでポイントが何かの商品と引き換えられると、少なくともその商品の原価分を損することになるため、百貨店の収益を圧迫する要因となっている。普段何気なく貯めているポイントだが、それを使う際に企業に与えるインパクトの違いについて深く考えたことがなかっただけに、なるほどと感心してしまった。その他、帝国ホテルと東横インのビジネスモデルの比較、ドコモやキャノンが採用している有名な?「ジレット・モデル」の例など、なかなか楽しめる本である。

なぜ、あの会社は儲かるのか?

なぜ、あの会社は儲かるのか?

  • 作者: 山田 英夫, 山根 節
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本


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12/1 魔性 [本]

デビュー以来、面白い作品を連発してきた渡辺容子だが、5年ぶりの新刊本とのことで、期待して読んだ。結論から言うと、ちょっとがっかり。引きこもり症になり、自堕落な生活を送っている29歳独身女性の主人公が、唯一の生き甲斐であるサッカーのサポーター活動を通じ、知り合った女子高生の友達が何者かに殺されてしまったので、その真犯人を見つけようとするストーリー。謎解きを主体にしているというよりは、その過程において主人公が自堕落な生活から抜け出て前向きに生きようとする心の変化、そして、一見幸せそうな人生を送っているように見える周りの善人たちも色々な裏の顔を持っており、誰もが表の顔と裏の顔の間の葛藤を多かれ少なかれ持ちながら苦労して生きていることなど、人間そのものを描写しようとしている。まあ、ソコソコには面白いのだが、どうも展開に強引なところがあったり、間延びしているところがあったりと、いつもの渡辺容子小説のメリハリと描写のキレが欠けている感じ。期待値が高過ぎたためにこのような感想を持っているのかもしれない。

魔性

魔性

  • 作者: 渡辺 容子
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本


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11/22 データの罠 [本]

旧自治省出身であり、現在はアカデミズムの人間となっている筆者が各種統計調査の落とし穴について書いた「データの罠~世論はこうしてつくられる」という新書を読んだ。一般的に、新聞などで統計調査の結果により定量的なデータが示されると、それを鵜呑みにしてしまいがちだが、そのような行動のあり方に警鐘を鳴らしている。サンプリングの仕方、質問設定の仕方、回答の解釈の仕方、他のデータとの比較の仕方などにより、調査結果は比較的簡単に誘導できるものであり、すべてを真に受けてはいけないというのが筆者の主張であり、その主張の根拠が分かりやすく書かれている。なお、この本の最後の方には、ページが余ったのか、なぜかあまり統計調査とは関係ない、耐震偽装や粉飾決算などのコンプライアンスの問題や郵政民営化など官業の民営化問題に対する筆者の考え方が示されているが、まあこれはこれでまっとうなご意見。

データの罠―世論はこうしてつくられる

データの罠―世論はこうしてつくられる

  • 作者: 田村 秀
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 新書


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11/20 太陽の塔 [本]

京大卒の後輩Tから「くだらないですけど、読むと絶対懐かしくなりますから、ぜひ読んでみてください」と推薦され、読んだ一冊。日本ファンタジーノベル大賞受賞作ということだが、この大賞、どのくらい重みのあるステータスなのだろうか。内容は、京大の学生でオタクの主人公の恋愛に関する独白小説。ほとんど筆者の実体験をベースにしていると思われる。本当にくだらないが、これまでベールに包まれていたオタクの行動生態をつぶさに観察することができるという点で面白いし、たしかに京大周辺の地名や「鴨川等間隔の法則」といった京都に住む人間であれば誰でも知っている事象?が当たり前のように登場し、懐かしい気分に浸ることができる。また、本上まなみが解説を書いているのがなかなか面白い。京大卒の人限定ではあるが、流し読みしてみるとよいと思う。

太陽の塔

太陽の塔

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫


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11/13 異常気象売ります [本]

シドニィ・シェルダンの「異常気象売ります」を読んだ。新刊が出るとどうも脊髄反射的に読んでしまうが、明らかにかつての「ゲームの達人」「真夜中は別の顔」などの頃と比べて質が落ちており、そのような劣等品の大量生産に走っているのは寂しい事態である。この小説は、異常気象を発生させることができる技術開発を巡って、世界中で科学者たちの不審死が発生し、そのすべてにある研究所が関わっていることが明らかとなり、その謎を美女二人が解き明かしていくというストーリー。展開が早いのはいつものシドニィ・シェルダンのとおりなのだが、ディテールが犠牲にされすぎてしまっており、全体として粗い作品になってしまっている。大きな期待を持って読むと損をするが、暇つぶし程度にはよいかもしれない。

異常気象売ります〈上〉

異常気象売ります〈上〉

  • 作者: シドニィ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本


異常気象売ります〈下〉

異常気象売ります〈下〉

  • 作者: シドニィ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本


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11/7 ザ・リコール [本]

ダイヤモンド社の経済小説大賞はいつも注目しているが、今年の受賞作である「ザ・リコール」を読んだ。読み始めてすぐに、三菱自動車のリコール隠し事件をベースにしていることが分かる。車の構造上の欠陥が生じている蓋然性が高いにもかかわらず社会的評価の失墜と多大なコスト発生をためらってリコールを避けようとする自動車会社、自動車会社と共謀して保険料の支払いを抑えようとする損保会社、これらの不正を告発しようとする損保会社の社員の攻防を描いている。さらに、自動車会社、損保会社それぞれが大企業であり、この問題を奇貨として、社内における自らの影響力の拡大を狙うグループが暗躍するが、いかにもモラルの下がった組織にありそうな話で、描写になかなかのリアリティがある。きっと著者自身の損保会社における勤務経験が活きているのだろう。「コンプライアンス」という言葉が一般化して久しいが、この言葉がいったい何を意味し、組織の一員としてどのように行動すべきかということを正面から考えさせられる一冊。

ザ・リコール

ザ・リコール

  • 作者: 志摩 峻
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2006/09/29
  • メディア: 単行本


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11/6 ラストワンマイル [本]

楡周平の「ラストワンマイル」を読んだ。最近、楡さんは高杉良を意識しているのか、ビジネスの世界を舞台にした男たちの熱い闘いを描く小説が多い。「ラストワンマイル」という言葉はマーケティングの世界でよく使われる用語だが、要はB to Cマーケティングにおいて消費者に接続する部分であるサプライチェーンの最下流の部分をどう攻略するのかという話で、コンビニや宅配便がこの部分の帰趨を握っている。本書は、おそらくクロネコヤマトをモデルにしているのだと思われるが、コンビニとの宅配便受付に関する独占契約を郵政公社に奪われ、急成長のインターネット通販ショッピングサイトからも配送手数料のディスカウントを迫られた宅配業者が起死回生の一手として、自分たちの強みを再認識し、新しいビジネスモデルを構築していくストーリーである。ストーリー展開が安直すぎるような気もするが、テンポがよいのでどんどん読み進んでしまう。それなりに面白いが、一連の楡小説の中では中の下程度の位置づけ。ハードカバーとしては若干割高感があるか。

ラスト ワン マイル

ラスト ワン マイル

  • 作者: 楡 周平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/10/26
  • メディア: 単行本


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